雪 花 





空から冷たい花が舞い降る夜

かおりを残すこともなく、一瞬に咲き誇りその身を散らしていく白い花

かをらずの花は、ただ静かに私に舞い降りてきていた

だけれど、この花は冷たく白い花






降りしきる雨のように、絶えることなく冷たい雪が舞い降る夜



私の足元に広がるのは、朱い川

温かく、鮮やかなは・・・・

やがて冷たく、鮮やかなになるだろう



ごぉ・・・・

遠くで、春近きことを告げる風たちの鳴き声が聞こえた

今宵は、この冬最後の雪闇となるだろう

色のない空から雪が舞い降りる



体は寒いとは思わなかった

寒いのは、だた心だけ

やがて、ここは白一色に覆われた雪の世界になるだろう

そして、この朱い川はきっと雪の世界の中で唯一の色になるのだろう



私は、朱い川に横たわり

その雪たちを見つめていた



静かに体に降り注ぎ、溶け出す純白の雪たちは・・・・

やがて私の体温を奪って行く

冷たい雪に抱かれて、私はただ色のない空を見つめている



ごぉ・・・・

また、遠くで風たちが鳴いている

この雪たちが止み、解けはじめれば

直ぐにでも、風たちが春を連れてやってくるだろう



私の体は、静かに降り続く雪たちによって優しく抱かれていた

最も欲しいと思っていたあたたかさは、もうこの世にはないけれど

雪たちは、私の願いを叶えてくれているようだった

あの日に見た妖かしの華の森

前も後ろも右も左もなくなっていた華の檻

震える枝から零れゆき、止めど無く流れる淡く光る白い雫が

微かな夜風に、ひとつ、また、ひとつと舞い降る

降りしきる雨のように、絶えることなく



その檻の中で、出会い

そして、冬を告げる風たちの声の中で失った大切な人




朱い川から、色のない空を見上げれば

そこに降る雪は、花びらにかわっていた



そして、私を抱き締めてくれるあたたかさは・・・・



舞い降りてくる華たちは、かおりを残すこともなく

ただ、美しく舞い降りてきていた

舞い散る華が、一瞬の刹那に見せる息を呑むほどの美しさで



ごぉ・・・・

春を呼ぶ風たちの声

ごぉ・・・・

風たちの声は、春が近いことを告げる喜びの声

ごぉ・・・・

だけれど、どうして悲しげに聞こえるのだろうか



もうすぐ来るであろう、春の風たちの声

だが今宵は、誰のために泣いているのだろう



後に残ったのは・・・・

微かに色づいた桜の花びら



最後の夜に

純白の雪たちが見せた 永久の 花闇 






おやすみなさい・・・








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